極薄膜Mo/Poly-Si積層ハイブリッド・フローティングゲートによる書き込み特性の向上

2026年9月28日

3次元フラッシュメモリはセル積層数の増加によって高ビット密度及びコスト低減を実現してきました[1]。しかしながら、積層数増加に伴うチャネル長の増加によるセル電流の低下が深刻な課題となっています。そこで、図1(a)に示すようなセル電流が積層数に依存しない水平チャネルSiを有するHorizontal Channel Flash(HCF)構造を提案し[2]、開発を進めています。HCFにおけるセル構造ではトンネル絶縁膜(TNL)の半径がブロック絶縁膜(BLK)の半径よりも大きく、BLKに印加される電界がTNLよりも強くなります(図1(b))。これは従来のセル構造とは逆の関係となっており、この逆曲率効果により書き込み特性の確保が困難となっています。

図1(a)HCF構造、(b)HCFセル構造の平面図[3] ©2026 IEEE

そこで我々は、図2(a)に示すような電荷蓄積層であるシリコンフローティングゲート(Si FG)とBLKの間に極薄金属膜を導入した金属/Siハイブリッド・フローティングゲート(HFG)を有する新規セル構造を提案・効果検証を行いました[3]。図2(b)のエネルギーバンド図に示すように、TNLを通過してきた殆どのバリスティック電子がHFG内の金属によって捕獲され、BLKを貫通する電子は低減します。従って、理論上はHFG導入により書き込み特性が向上します。

図2(a)HFGを有するセル構造の平面図、(b)書き込み時のエネルギーバンド図[3] ©2026 IEEE

図3(a)は極薄膜(0.1nm)の金属として、モリブデン(Mo)または窒化チタン(TiN)を用いたHFGを有する平面セル構造のキャパシタ評価により得られた書き込み特性の比較を示しています。金属(0.1nm)/Si HFGの導入により書き込み特性が向上していることが分かります。更に、図3(b)に示す書き込みSlope特性において、HFGでは理想的な~1 V/Vが得られています。一方、Mo/Si HFGの方がTiN/Si HFGよりも書き込み特性の向上率が高いことも分かります。これはMoの熱的安定性がTiよりも高いことに起因しており、金属拡散によるBLK劣化の観点においてMoの優位性を示しています。

図3 Mo/Si HFG、TiN/Si HFG及びSi FGを有するセルの(a)書き込み特性と(b)Slope特性[3] ©2026 IEEE

図4(a)は平面セル構造において、実験により得られた書き込み特性とTechnology Computer-Aided Design(TCAD)シミュレーションとの比較を示しています。実験結果とシミュレーション結果は非常に良く一致しており、書き込み電圧(Vpgm):21VにおいてMo(0.1nm)/Si HFGを有するセルでは、Si FGに対して1.4倍程度の書き込み特性の向上が再現されています。そこで、このシミュレーションモデルを図2(a)で示しているHFGを有するHCFのセル構造に適用し、書き込み特性の予測を行いました(図4(b))。TNLとBKLの逆曲率効果を持つセル構造において、Mo(0.1nm)/Si HFGの導入による1.5倍程度の書き込み特性の向上効果が実証されました。

図4(a)平面セル構造及び(b)逆曲率効果を有するHCFセル構造におけるTCADシミュレーションによる書き込み特性[3] ©2026 IEEE

実際にHCFのセル構造にHFGを適用するためには、高アスペクト比を有するメモリホール(MH)内において金属膜の0.1nm程度の極薄膜厚の制御及びカバレッジの確保が必要不可欠となっています。図5は(a)断面Transmission Electron Microscopy(TEM)像のMH形状におけるレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)により得られた(b)TiN及び(c)Mo面密度の深さ方向のプロファイルを示しています。それぞれの原料ガスとして、四塩化チタン(TiCl4)及び二塩化二酸化モリブデン(MoO2Cl2)を用いたAtomic Layer Deposition(ALD)法により成膜を行っています。ALD成膜によるMo(0.15nm)において、MHの上部に対する側壁部での膜厚カバレッジ率は90%以上となっており、TiNよりも優れていることを確認しました。

図5(a)高アスペクト比を有するMH内におけるALD成膜による(b)TiN及び(c)Mo面密度の深さ方向プロファイル[3] ©2026 IEEE

以上の結果は、HCFとMo/Si HFGを有するセルを組み合わせた構造が将来の3次元フラッシュメモリに向けた有望な候補であることを示しています。

本成果は2026年5月に開催されたIEEE IMW 2026(IEEE International Memory Workshop 2026)において発表されました。

文献
[1] H. Tanaka et al., “Bit Cost Scalable Technology with Punch and Plug Process for Ultra High Density Flash Memory”, in Proc. 2007 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits
[2] M. Oda et al., “Superior Scalability of Advanced Horizontal Channel Flash for Future Generations of 3D Flash Memory”, in Proc. 2024 IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM)
[3] D. Ikeno et al., “Ultra-thin Molybdenum/Polysilicon Stacked Hybrid Floating Gate for Enhanced Program/Erase Efficiency in 3D Flash Memory”, in Proc. 2026 IEEE International Memory Workshop (IMW)