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ポータブルSSD開発秘話[後編]時代を超えて愛されるタイムレスな製品をデザインとエンジニアの共創で生み出す


キオクシアのポータブルSSD「EXCERIA PLUS G2シリーズ」が、2024年度グッドデザイン賞に続き、世界3大デザイン賞の一つである「Red Dot Award: Product Design 2025」を受賞し、SSDとしての性能のみならず、その製品デザインにおいても高い評価を受けています。
今回は、この唯一無二のデザイン開発に携わったGKインダストリアルデザイン社(以下GK)の皆様と、キオクシアの担当者が一堂に会し、製品デザインに込められた想いや開発秘話について語り合ったその後編です。
――2つのデザイン賞を受賞した2世代目ポータブルSSDのデザインのこだわり
辻本:キオクシアさんの製品を初めて手掛けた時から、これが「単なる流行を取り入れた一品物のデザイン」で終わるのではなく、今後様々な製品が展開される事を見越して、3Dデザインのガイドラインを構築する基本形となるべきと考えていました。そのため、この2世代目の製品は、デザインの方向性を決める上で非常に重要な位置づけでした。初代で作った印象をどう引き継ぐのか、あるいは方向性を変えるのか。皆様と何度も対話させていただきました。ありがたいことに、初代のデザインを多くの方に気に入っていただけたので、その思想を引き継ぐ方向でデザインを進めました。初代が、どちらかというと手のひらで包み込むような、握りやすい形状だったのに対し、2世代目はより小さく、軽量となったため、今度は「指でつまむ」ような持ち方をイメージしました。また色については、高級感を求めたいという要望がキオクシアさんからありましたので、アルミ製筐体の質感を活かしながらも、光沢を抑えたより質感の高いメタリック塗装をGKから提案させていただきました。

若尾:形としては、初代が丸みを帯びたふくらみ形状だったのに対し、2世代目は中央がへこんだ形状と、一見全く違いますが、デザイン思想としては「掴みやすさ」「持ちやすさ」といった、製品を使う上での身体感覚やユーザー体験に寄り添うという点で共通しています。形やコンセプトを、それぞれの製品にふさわしいものに合わせ込んでいったイメージです。
伊藤:私は最初、この2世代目のデザインを見た時、非常に驚きました。へこんだ形状が、どうしても膨らんでいるように見えてしまい、「絶対ダメだ!」と言ったのを覚えています。天面がへこんだデザインのストレージ製品なんて、それまで見たことがありませんでしたから。GKさんから設計意図を聞き、完成したものを見て、とても愛着が湧きました。平面的に見るのと、立体になって光の当たり方や影を見た時、実際に手にした時の印象は全く違うんですよね。そこで初めて「これ、いいな」と思ったりするんです。3Dデザインならではですね。

――この2代目の「へこます形状」のデザインを実際に製品にするにあたっての苦労
木村:製品化においては、構造設計が一番苦労しました。初代製品ではネジを使っていた部分があったのですが、2世代目ではネジを見せない、シームレスなデザインを目指したいという要望がありました。ネジを使わない構造で、どうやって強度を保つか。内部構造のアイデアを筐体設計者に出してもらい、試作と検証を何度も繰り返しました。デザインと強度、両方を満足させるための試行錯誤ですね。また、初代製品ではラベルを使っていた表示部分を、2世代目では金属筐体へのレーザー刻印に変更しました。金属表面に安定して高品質な刻印をするのが初めての試みだったので、設備の選定から苦労しました。
辻本:GKとしてもデザイン提案の段階から、製造側の制約や実現性をより意識するようになりました。ネジを使わないシームレスなデザインでは、ネジを隠すための蓋や、その収め方にもこだわりが必要です。ネジが見えないのが一番美しいですが、たとえ蓋があっても、全体の仕上がり感がチープにならないような収め方を提案しました。無駄をなくすデザインは、見た目のシンプルさだけでなく、強度が求められる場合に特に難しさがあります。当たり前のことですが、高精度なものづくりは非常に難しいことなんです。
朝倉:木村さんがおっしゃったように、構造設計の苦労、特にへこみ形状を実現する上での割り切りも重要な点でした。単純にサイズを小さくすることだけを追求すると、へこみのような形状のためのスペースが確保できません。
木村:私たちの業界では、業界には「小さいものは良いものだ」という暗黙の了解のようなものがあるのですが、そうではない、必要十分なサイズを確保することで初めて実現できたデザインで、それは自分にとって「目から鱗」の経験でした。


初代製品はネジを使用、2世代目はネジを見せないシームレスなデザイン
朝倉:そして、それが実現できたのは、現場の皆様が「いいものを作りたい」という強い思いを持ち、数字だけではなくデザインの良さや、目指すべき姿を共有できていたからだと思います。そこに共通認識があったからこそ、ここは頑張るべきところだ、と皆が理解できたのだと。
木村:デザインの初期段階から、私たちのメカ設計担当者もGKさんと一緒に議論に参加していました。そういった密な連携ができたことが、製品の実現につながったと感じています。
伊藤:製品本体だけでなく店頭に並ぶ パッケージデザインも製品の魅力を伝えるための重要なタッチポイントです。このデザインの良さが伝わる見せ方、品質保証のために表示しなければならない情報をバランスよく、GKさんは実現してくれたと思っています。

――キオクシアのリテール向けメモリ製品のデザインの可能性について
朝倉:現在、私たちは「本質的」「タイムレス」といった、ある意味幅を絞った軸でデザインを進めていますが、今後マーケットを広げていくためには、ある程度の多様性も必要になるかもしれません。絶対的な品質や本質を外さずに、どのように展開していくか。カラーバリエーションなども一つの方向性でしょう。どのようなお客様に製品を届けたいかによって、デザインのアイデアも変わってくると思います。
木村:おっしゃる通り、場合によっては形状から変えていく方が良い、ということもあるかもしれませんね。メモリ製品という企画上の制約もありますが、その中でも「もっとこういったことができるのではないか」といった可能性を探っていきたいと思っています。
間渕:新しいブランドなので、製品ごとにイメージがバラバラだと「キオクシアブランドって何だろう?」とユーザーが混乱してしまう可能性があります。ユーザーに届く製品に関しては、できる限りイメージを統一し、「これはキオクシアだよね」と認識してもらい、信頼できるブランドとして選んでもらえることを目指しています。そこのバランスが難しいところです。
若尾:ポータブルSSD以外にも、microSDメモリカード、USBフラッシュメモリなど、様々なメモリ製品がありますが、それぞれの製品の特性(大きさや性質)は大切にしたいと考えています。ただし、製品ごとの特徴に合わせてデザイン思想自体も常にブラッシュアップしていく必要があります。他社がすぐにデザインを変えることが多い中で、変わらない軸を持ちつつ進化していくデザインができれば、それがブランドらしさに繋がるのではないでしょうか。マーケティング的な戦略も踏まえつつ、どこまでデザインで挑戦できるか。是非一緒に考えていきたいです。
対談参加者
株式会社GKインダストリアルデザイン
代表取締役社長 朝倉 重徳 氏
執行役員 シニアデザインディレクター 若尾 講介 氏
チーフデザイナー 辻本 慧 氏
キオクシア株式会社
リテールSSDマーケティング技術担当 間渕 英 氏
クライアントSSD製品技術担当 木村 大輔 氏
販売推進統括部 伊藤 美和 氏
掲載している内容とプロフィールは取材当時のものです(2025年6月)