ポータブルSSD開発秘話[前編]時代を超えて愛されるタイムレスな製品をデザインとエンジニアの共創で生み出す

キオクシアのポータブルSSD「EXCERIA PLUS G2シリーズ」が、2024年度グッドデザイン賞に続き、世界3大デザイン賞の一つである「Red Dot Award: Product Design 2025」を受賞し、SSDとしての性能のみならず、その製品デザインにおいても高い評価を受けています。

今回は、この唯一無二のデザイン開発に携わったGKインダストリアルデザイン社(以下GK)の皆様と、キオクシアの担当者が一堂に会し、製品デザインに込められた想いや開発秘話について語り合いました。

――GKインダストリアルデザイン社にポータブルSSDのデザイン設計を委託することになった経緯について

間渕:キオクシアは2019年10月に東芝メモリから社名変更し、新たにスタートしました。2020年から、SSDやmicroSDメモリカード、USBフラッシュメモリといった個人のお客様向け製品のキオクシアブランドでの販売を本格的に開始したのですが、当初は既存の製品に印字されたロゴを変更してキオクシアブランドとして販売することが多かったんです。

その中で、ポータブルSSDは、キオクシアとして初めてゼロからデザインを企画・開発する3Dデザインの製品となりました。我々には「『記憶』で世界をおもしろくする」というミッションがあり、ブランドの表現として「シンプルで明瞭、洗練されていて、ワクワクする」といった指針があるのですが、正直「ワクワクする」などを形にするのは非常に難しく、それを具現化するためのデザインパートナーが必要だと感じていました。

伊藤:当時、キオクシアとしてこれから手掛けていく3D系製品のデザイン全般を任せられるパートナー探しにおいて、複数の会社から設計、販売の現場にいる我々がパートナー選定、検討・面談を重ねてGKさんにお願いすることになりました。

間渕:また、GKさんが手掛けられた過去のデザイン、例えばキッコーマンの醤油差しのような時間や時代を超えて愛される「タイムレスなデザイン」のお話を伺い、GKさんとパートナーになれれば、きっと素晴らしいものが作れると感じたんです。

――キオクシアの印象について

朝倉:キオクシアさんに関しては前身が東芝ということは分かっていましたが、それ以上の詳しい知識はありませんでした。ただ、ひとつすごく印象的だったのは、キオクシアさんが当時流されていたテレビCMが、非常に鮮やかでポップな世界観だったことです。正直、最初は「あのCMの世界観でSSDを作るのかな?」と思っていました。

キオクシアのブランドを表現する明るく鮮明なカラーを使ったキービジュアル

辻本:CMの動的でワクワクするようなイメージと、SSDという静的な製品をどうつなげていくのか、という点に興味がありました。また、実際に会社にお邪魔して感じたのは、ブランドカラーのシルバーや、メモリ製品自体が持つ精密で洗練された印象と CMのポップなイメージとの間に少しギャップを感じました。

――ポータブルSSDのデザインにおけるこだわりや思想について

朝倉:デザインにおいては、よくビジュアルと機能性、あるいはデザインとエンジニアリングを別々の概念として捉えがちですが、GKではそうではなく、これらは一体であると考えています。優れた設計や優れた意匠は、深く突き詰めて考えていくと、ある一点で一致する場所があるんです。それを探求していくことこそがデザインだと考えています。私はこれを「設計意匠同源(せっけいいしょうどうげん)」と呼んでいます。これは「医食同源(いしょくどうげん)」のように設計と意匠も実は根源では同じという意味です。だからこそ、現場のエンジニアの方と直接話す方が、意図がブレないのでやりやすいんです。GKでは「美しい」という言葉を大切にしていますが、これは表面的な「きれい」という意味だけでなく、物事の本質や、理屈にかなった合理的な状態を指す深い意味での「美しい」も含んでいます。設計が物理や数学の原理に基づくように、美しいと感じる形もまた、そうした原理に基づいています。

辻本:初代ポータブルSSDでは、まず「握りやすい」という点を重視しました。これは、多くのB2C製品が家電量販店などで目立ちやすく装飾的なデザインとなっている中、あえてそうではなく、長く愛着を持って使える「いいもの」にしたいという思いがあったからです。キオクシアさんが新しいブランドイメージを背負って日本から世界に発信する上で、単に流行を追うのではなく、デザインの本質を追求した方が、長く続くブランドイメージを構築できると考えました。

若尾:もう一つ重要な点として、キオクシアさんのブランドガイドラインで「データを記憶と言い換えている」ことがとても面白いと感じていました。単なるデータの演算処理ではなく、それが人間の「記憶」に繋がり、愛着が湧くようなものになる。それがキオクシアというブランドであり、キオクシアは良いものを作るんだ、というイメージにつながれば良いと思いました。

辻本:そのため、見た目の印象だけでなく、手にした時の印象も大切にしました。目をつぶっても「これはキオクシアさんの商品だ」とわかるような、触覚や感覚に訴えかけるデザインを目指したんです。

木村:シンプルな形状に見えるかもしれませんが、このシンプルさにたどり着くまでにはものすごく苦労がありました。まさに、キオクシアの事業として「記憶に残る形」にたどり着けたのではないかと思っています。

間渕:デザインが流行に左右されるものだと、時間が経った時に古く見えたり、格好悪く見えたりする可能性があります。そうではなく、タイムレスで本質的に良いデザインでありたい。シンプルで永遠のデザインを目指したいという思いがありました。

朝倉:シンプルで永遠のデザインでありながら、他の製品とは違う、ユニークさも出す。これが一番考えた点かもしれません。変に奇をてらうと、タイムレスではなくなってしまいますから。私の好きな言葉に「不易流行」があるのですが、常に「変わらない本質」を大切にしながら、どのような変化を取り入れていくかを考える姿勢を貫いていくことが必要だと思います。

対談参加者

株式会社GKインダストリアルデザイン
代表取締役社長 朝倉 重徳 氏
執行役員 シニアデザインディレクター 若尾 講介 氏
チーフデザイナー 辻本 慧 氏

キオクシア株式会社
リテールSSDマーケティング技術担当 間渕 英 氏
クライアントSSD製品技術担当 木村 大輔 氏
販売推進統括部 伊藤 美和 氏

掲載している内容とプロフィールは取材当時のものです(2025年6月)