リアルタイムで賢くなるAIを作れ!~記憶検索型AIとKIOXIA AiSAQ™の物品判別AIへの応用~

生成AIが生活の基盤となり、産業の現場でもAI活用が当たり前になりつつある今、新しい情報を学び直すたびに膨大な時間と計算資源を必要とする従来のAIのあり方が、課題として浮かび上がっています。

「刻々と変わる事象の元でもAIを活用する方法はないのか?」

その問いと向き合う中で、新たな情報をストレージに記憶し、必要なときに即座に検索して活用する「記憶検索型AI」と「KIOXIA AiSAQ™」が使えるのではないかという発想が生まれました。マテリアルハンドリング(マテハン)事業を展開する椿本チエインの「AI(あい)てむ鑑定士®」に、この2つの技術の導入を提案したキオクシア先端研究所の若き研究者、そして協業者である椿本チエイン、EAGLYSの開発者たちが、その挑戦の裏側を語ります。

――まず、椿本チエインさんがどんな課題を持っていて、何がきっかけで協業に至ったのかその経緯を教えて下さい。

椿本チエイン 松村:当社は機械部品から搬送システムまで幅広いビジネスを展開しています。その中で、私が開発に携わっているマテハン設備では、仕分けを行うために「これから何が装置に載るのか」を事前に正確に把握する必要があります。一般的には商品のバーコードを使いますが、読み込む際に貼り付け位置を探したり、なかなか読み取れなかったりすることがあり、処理速度がボトルネックになっていました。

そこで、「置くだけで自動的に判別できる仕組み」を目指し、画像認識による判別をEAGLYSさんと取り組んできました。技術的には一定のレベルまで到達しましたが、物流現場では商品点数が増え続けます。従来の方法では、新製品が出るたびに学習画像を集めて再学習する必要があり、その頻度と運用コストが実運用における大きな課題でした。この課題に対して、EAGLYSの丸山さんから再学習によらず対応できる記憶検索型AIがブレイクスルーになり得るのでは、という提案を受けてこのプロジェクトに参加しました。

EAGLYS 丸山:以前公開された記憶検索型AIに関するキオクシアの記事を読んで、技術者からも話を聞いて、EAGLYSと椿本チエインさんとの取り組みに活かせるかもと、私から話をしたのがきっかけですね。そこから、まずは1年くらいかけて3社で検討を重ねてきました。忘れられないのが、椿本チエインさんの埼玉工場に訪問した帰り道での出来事です。電車の中で、中田さんが目を輝かせて記憶検索型AIの適用可能性を語っていて、その熱い姿が、今でも強烈に記憶に残っています。

キオクシア 中田:記憶検索型AIを開発したものの、実際の社会課題解決に繋がる実応用先がすぐには見つけられず、まだ先のことだと思っていましたので、このようなきっかけで適用先が見つかるとは驚きました。

――松村さん、丸山さんから見たキオクシアの印象をお聞かせ下さい。

椿本チエイン 松村:協業にあたり、四日市工場を見学させてもらったのですが、第一印象はとにかく「大きな会社だな」と圧倒されました(笑)。正直、ソフトウェアを研究開発しているイメージがなかったので意外でしたね。もちろん、ハードウェアを売るためのソフトウェアを開発している会社は他にもあります。ただ、キオクシアさんの場合、「記憶」というキーワードにフォーカスすると、こういう形(記憶検索型AIなど)に行き着くのか、と納得しました。

あと、四日市工場の現場の方々がとにかく明るいんです。クリーンルームでの精密な製造というと、一人で黙々と作業するイメージがあったのですが、実際に言葉を交わしてみると全然違う。「こんなことやりたいんだよね」「もっとこういうことできるんじゃない?」と、ものすごく前向きで活発な議論ができる。とても活気のある会社だなと感銘を受けました。

EAGLYS 丸山:主に研究開発の現場でご一緒するため、研究所の方々の話になりますが、私が関わってきたキオクシアの技術者は、新しい挑戦に対してものすごい情熱を持ってやっている方が多いなという印象があります。議論の場では、理論的な知識をベースにしつつも、イノベーティブなアイデアが次々と出てくる。それを本当に楽しそうに語る姿が、とても心に残っています。あと、意外と言っては失礼かもしれませんが、お洒落で、ファッションにこだわりのある技術者が多いと思いました。

キオクシア 中田:研究開発、とりわけイノベーションを起こすためには、常に新しい発想が不可欠です。限られた範囲で、既存の常識にとらわれていては、新しい価値は生まれません。ですから、今回のように多様なバックグラウンドを持つ方々と関わり、社外の皆さんとコラボレーションできたことは、私にとって本当に貴重な経験でした。私自身、椿本チエインさんの工場に何回か伺いましたが、現場の皆さんの明るさと、チームの団結力がとても印象的でした。

――技術的なチャレンジだった点、どの辺が「おもしろい」チャレンジだったのでしょうか?

椿本チエイン 松村:一番大きな壁だったのは、数万種類ある商品を、数百ミリ秒という短い時間で正確に判別しなければならない点でした。しかも、既存の仕組みと同じレベルで動かしつつ、新しい商品が出たら「記憶を足す」だけで即座に対応する必要がありました。ここで難しかったのが精度です。今まで99%の正解率を出せていたなら、新商品を追加してもその精度を維持することが求められます。

正直、AIにとって99%という数字自体が大きな挑戦です。それを(判別対象が)増え続ける中で維持するというのは、高い目標であることは認識していましたが、現場としては譲れないラインであり、今回の協業における我々の役割は、「ここがゴールラインだ」という基準を明確に示すことだったと思っています。お客様が求めているのは、このレベルのクオリティなのだと、開発チームに理解してもらうことがとても重要でした。

AIてむ鑑定士®

EAGLYS 丸山:今回、最も苦労したのは、「AIてむ鑑定士®」と「記憶検索型AI」を両立させる部分でした。実装のアプローチはいくつもあり、様々なパターンを試行錯誤しながら組み上げていったのですが、一筋縄ではいきませんでした。今でも少し課題が残っているくらいで、全体の中でも特に難易度の高い挑戦だったと思います。あと、半導体事業を手掛けるキオクシアさんと、エンドユーザーに近い物流業界でソリューションを手掛ける椿本チエインさんとの間で、文化的な違いや考え方の違いがあって、発起人として研究開発の方向性をまとめ上げるのに苦労しました。

キオクシア 中田:技術者として純粋におもしろいと感じたのは、四日市工場で導入されている半導体ウエハーの欠陥検査の画像認識の技術と、今回のプロジェクトで適用しようとした画像認識の技術では、技術的な前提条件がまったく違っていたことです。欠陥検査の場合は、高解像度で高価なカメラを使い、限られた種類の欠陥ながらも微細な見た目の「微妙な違い」に基づき、欠陥の種類を仕分けるタスクです。

一方、今回の案件は、カメラは一般的なスペックですが、対象となる商品数は数万種類と桁違いに多い。ただし、個々の商品パッケージ自体は量産品であり、見た目の個体差はほとんどありません。それなら、見た目の違いを学習して特徴を抽出するよりも、「何万種類でもそのまま覚えて、見比べる」すなわち「既知の膨大なデータと照合する」というアプローチの方が合理的ではないか、と仮説を立てました。

実際、記憶検索型AIの特性は、今回のような「多品種」のケースでこそ最大限に活きると再認識しました。さらに現場では、キャンペーンや季節商品による入れ替えが頻繁に発生します。これを毎回学習し直すのは運用コストが見合いませんが、記憶検索型AIなら「必要なものを足して、いらなくなったら消す」という運用ができる。そこが今回の一番のチャレンジであり、同時に、この記憶検索型AIの真価はここにこそある、と確信できた瞬間でした。

EAGLYS 丸山:最大の成果は、新しい商品をどんどん追加しても、精度をほぼ維持できたことですね。これまでは新商品が出るたびに毎回学習し直していて、その都度、数十万円かかるし、商品は3日に1回くらいのペースで増えていくため、運用に限界を感じていました。しかし今回は、学習し直さなくても新しい商品をそのまま追加でき、しかも精度がほとんど落ちません。もちろん大量に追加すれば多少落ちるんですけど、それでも再学習の頻度は劇的に下がりました。結果として、モデルの再学習が減り、ランニングコストもエネルギー消費も抑えられる。そこが非常に大きな成果だと思っています。

椿本チエイン 松村:この技術により、サービスレベルが向上するのは確実です。しかし、それ以上に価値があるのは、物流という現場に根ざした課題解決になっている点です。いくら高精度な判別技術があっても、それだけでは現場の課題解決にはなりません。なぜなら、日々増え続ける新商品に対し、「データ収集と再学習」という重い運用負荷がのしかかるからです。私たちが価値を感じているのは、この最大のボトルネックを解消し、絵に描いた餅ではなく、実運用に耐えうるソリューションとして確立できた点です。

――3社でやって良かったことは何でしょうか?

椿本チエイン 松村:今回の共同開発を通じて、一番良かったのは、パートナーとの関係性が深まったことです。開発の過程では、うまくいかないことや、意見がぶつかる場面もありましたが、それでも「どう乗り越えるか」を一緒に考え、妥協せずに向き合うことで、自然と信頼関係が築かれていきました。そうした関係性の中で、今回の技術テーマにとどまらず、「実はこんな可能性もあるのでは」といった、次につながる議論が生まれます。開発者として、自分たちの技術がどこで使えるのかを探り続けることは重要であり、3社の多角的な視点を共有できたことは大きな収穫でした。

EAGLYS 丸山:発起人という立場でしたので、今はとにかくホッとしている、というのが正直なところです。今回の取り組みを通じて、共通のテーマを軸に対話を重ねることで、少しずつ関係性や議論が広がっていくのを感じました。開発に関わる中で、技術だけでなく、人と人とのやり取りや考え方の共有が、次の展開につながっていくのだと、数多くの場面で実感しました。

キオクシア 中田:今回の取り組みで痛感したのは、自社だけで開発を進めていると、どうしても視点や発想が偏ってしまうということでした。異なる文化や専門性を持つ企業の技術者と膝を突き合わせ、一緒に議論しながら開発を進める。それによって、全く新しい角度から物事を考えることができたことは、私にとって得難い経験でした。本気で意見をぶつけ合う場面もありました。しかし、その積み重ねがあったからこそ、展示会での出展や、その後の議論の広がりにつながったと感じています。

当社は半導体ストレージの開発には強みがありますが、物流業界での実際の使われ方や、社会課題解決に直結したサービスの設計までは、単独ではカバーできません。椿本チエインさんのハードウェアや現場知見、EAGLYSさんのAIソフトウェアとKIOXIA AiSAQ™を組み合わせることで、自社だけでは踏み込めなかった領域にも技術を展開できる可能性が見えたことは、とても意義のあることでした。

――今後どのような用途の拡大があり得ますか?

椿本チエイン 松村:物流業界では日用品に限らず、部品、野菜、半導体、自動車、さらには細胞のようなものまで、運ぶ対象は多岐にわたります。その中で「次の判別」、「次の仕分け」へとつながっていく技術として、今回の取り組みには大きな可能性を感じています。

EAGLYS 丸山:「記憶検索」という文脈では、LLMの基盤技術の一部や「顔認識」の分野にも使われています。ただ、今回のように、「モノの判別」に記憶検索型AIを使うアイデアを実装する例は、まだ多くありません。今回の成果は、記憶検索型AIの新しい可能性を広げていくことに繋がったと思います。

キオクシア 中田:今回の記憶検索型AI、KIOXIA AiSAQ™という技術だけではなく、今後も、新たな技術の研究開発とその技術の可能性を社会に根差した課題解決に適用すべく、様々な会社の方と幅広く取り組んでいけるとおもしろいと思っています。

――開発者としての夢についてお聞かせください。

椿本チエイン 松村:私たち椿本チエインは、ひたすら「モノを動かす」ことに向き合ってきた会社です。でも、単に右から左に動かすだけじゃおもしろくない。「動かしてる間に仕分けするとか、何か付加価値をつけたい」という思いが、ずっと根底にあるんです。

今回の画像判別もその一つで、「もっと賢く動かせるはずだ」という気持ちで挑みました。現状は画像で「種類」を判別していますが、将来的には食品の安全性や鮮度、さらには「おいしさ」といった中身の状態まで分かるようになるかもしれません。単なる仕分けを超えて、「状態」まで判別できるようになったら、物流に新しい価値が生まれます。判別技術をとことん磨き上げていけば、「そんなことまで判別できるの?」という領域まで行けるのではないかと思います。極端な話、コンベアで運んでいる間に、振動を与えたら魚が美味しくなる、みたいなことができたらおもしろいじゃないですか。「水揚げされた瞬間より、家に届く頃の方が美味しい」。そんな魔法のような物流ができたら、すごく夢がありますよね。

EAGLYS 丸山:例えばロボットが料理をするとして、洗剤などを間違えて入れたら取り返しがつきません。だからこそ、「目の前のモノが何であるか」という判別を、正しくさせなければならない。その「正しく認識する」というのが、まさに今回私たちが挑んだテーマなんです。最初のアプリケーションは物流の仕分けですが、この技術を広げていけば、人とロボットが一緒に暮らしたり、同じ仕事をしたりする世界では、不可欠な技術になるはずです。今回の取り組みが、そんな未来を支える土台になればいい。それが、私が描いている夢ですね。

キオクシア 中田:そうですね。お二人の描く夢を実現する上で、自分が開発した技術が使われて、社会の課題を解決していけたらいいなと思います。そのために協業という形を通して生きた技術を開発し、社会に実装していくこと、それが私の夢です。

――松村さん、丸山さん、キオクシアに対する期待について聞かせて下さい。

椿本チエイン 松村:これからの時代、データをより高解像度で扱えるようになれば、今とは次元の違う価値が生まれると考えています。コストを気にせず、潤沢に、それこそジャブジャブと湯水のように使い倒したいのです。技術的な制約があることは承知していますが、我々が期待しているのは、「膨大なデータを蓄積し、必要なときに引き出せて、かつコストを抑えられる」という夢のインフラです。これが実現すれば、センシングの解像度を極限まで上げたり、大容量データを長期の時系列で扱ったりできて、これまでにないアプローチが可能になります。実際、データ量はもうペタバイト級に達しています。「保管コストの劇的な低減」。これが、現場からの切実な願いですね。キオクシアさんのイノベーションに期待したいと思います。

EAGLYS 丸山:期待しているのは、「無限に使えるSSD」と、その上に成り立つ新しいビジネスモデルです。容量や寿命を気にせず、サステナブルに回る環境があれば、AIで大量のデータを使えますし、今は捨てているデータも全て資産として持っておける。暗号化も含めて、活用の幅が一気に広がるでしょう。無限に置けるインフラがあれば、その上で試行錯誤できる。そこから、思いもよらないイノベーションが生まれるのではないかと。データが本当に価値を生むためには、そういう環境が重要なんです。

過去から今までのデータをタイムラプスみたいに見たり、必要なところだけ切り取ったり、混ぜたりするのって、非常にクリエイティブでおもしろい体験になるでしょう。データは、取り方次第で多様な価値が生まれます。しかし、その価値が「いつ生まれるか」は誰にも分かりません。だからこそ理想は、容量の制限がなく、データを保持し続けられるインフラですね。将来的には、味覚とか嗅覚など、人の感覚にすごく結びついてる領域のデータ化も進むのではないかと思います。もしそれが実現すれば、例えばレシピは単なるテキスト情報ではなく、もっと立体的に進化します。有名店の味や、家族に受け継がれてきた味の「記憶」を、完全なデータとして残せる、そんな夢のようなアプリケーションを支えるインフラをキオクシアさんには実現してほしいです。

――お2人からの期待を受けてどう思いましたか?

キオクシア 中田:今のAIは、そもそもデータを長期でうまく保存して、うまく使う前提になっていないのではないかと思っています。今回の協創を通じて、私はその「当たり前だったやり方」とは全然違うアプローチを切り開けたらと考えています。目指すのは、「データを蓄積すること自体が価値になる」世界です。そこからまだ見ぬイノベーションが必ず生まれると思います。データ活用の現場で、どんな新しいビジネスが生まれるか、どんな新しい使われ方が出てくるかに目を向けながら、お二人が語られたような「記憶」というものの未知なる可能性や価値を今後も追求していきたいです。

対談者

株式会社椿本チエイン
マテハン事業部 新事業・商品開発部 先端技術開発課長代理 松村 翔太 氏

EAGLYS株式会社
取締役 丸山 祐丞 氏

キオクシア株式会社
AI・DX技術研究開発部 AI・DX技術研究第三担当 主務 中田 憲吾 氏

掲載している内容とプロフィールは取材当時のものです(2026年1月)

  • AIてむ鑑定士は、椿本チエインの登録商標です。
  • KIOXIA AiSAQは、キオクシアの商標です。
  • その他記載されている社名・製品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。